家族信託(民事信託)でスマートな事業承継を実現!
監修
司法書士 速水陶冶
/司法書士法人はやみず総合事務所 代表東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
中小企業の経営者は、後継者への事業承継について、早い段階で準備しておく必要があります。高齢化により、近年は事業承継がスムーズにできず、問題が起こるケースも増えているからです。
家族信託(民事信託)は、事業承継対策にも活用できます。家族信託を事業承継に利用する方法やメリットを知っておきましょう。
高齢化社会における事業承継の問題点
株式の生前贈与による事業承継は有効?
中小企業の場合、自社株式の大部分を会社オーナーが所有しているケースが多いと思います。事業承継するときには、オーナーが所有している株式を後継者に移転させなければなりません。
オーナーが生きている間に、株式を後継者である子供などに贈与して事業承継を行う方法もあります。しかし、株式の生前贈与による事業承継には、いろいろとデメリットがあります。
生前贈与では、贈与税がかかります。株式を一度に贈与すれば、多額の贈与税がかかってしまうでしょう。なお、贈与税には毎年110万円の非課税枠があるので、株式を毎年少しずつ譲渡すれば贈与税の負担は抑えられます。ですが、途中でオーナーに万一のことがあった場合に対応ができません。
また、株式を贈与してしまうと、経営権も譲渡してしまうことになります。後継者が経営者にふさわしくないことがわかったとしても、後から株式を返してもらうのは困難でしょう。
遺言で後継者に株式を相続させる方法は?
事業承継のために、遺言で後継者を指定して、株式を譲渡する方法もあります。遺言を書けば、自分で後継者を選ぶことができます。
しかし、遺言は本人が亡くなって初めて効力を持つものです。もしオーナーが亡くなる前に認知症になった場合には、遺言だけでは対応ができません。
会社オーナーが認知症になった場合のリスクとは?
オーナーが自社株式の大半を保有したまま認知症になれば、事業凍結のリスクがあります。認知症で判断能力がなくなった株主は、議決権を行使できません。つまり、経営判断ができなくなってしまうということです。
大株主であるオーナーが議決権を行使できなくなれば、株主総会を開催することもできません。決算の承認や役員の改選等もできなくなり、会社の経営はストップしてしまいます。
成年後見人を選任したら問題は解決する?
オーナーが認知症になった場合に備えて、成年後見人を付ける方法もあります。成年後見人が付いていれば、法定代理人として株主総会に出席し、議決権を行使することも可能です。
成年後見人には、家庭裁判所に選任してもらう法定後見人と、本人があらかじめ選んでおく任意後見人の2種類があります。オーナーが認知症になる前であれば、自分で任意後見契約を結んで、任意後見人を選ぶことができます。
また、オーナーが既に認知症になっている場合でも、家庭裁判所に申し立てて法定後見人を選任してもらえます。
成年後見人が付いた場合、成年後見人によって議決権の行使はできますが、適切な経営判断ができるとは限りません。成年後見制度だけでは、事業を継続していく上でのリスクを十分カバーできない可能性があります。
家族信託(民事信託)は事業承継に活用できる
家族信託(民事信託)による事業承継対策とは?
中小企業の事業承継対策として、家族信託を利用する方法があります。家族信託は、信頼できる家族を受託者とし、財産の管理や処分を任せるというものです。
家族信託では、自分は委託者兼受益者として財産の実質的な所有者の地位を維持できますが、自分以外の人を受益者に指定して財産から得られる利益を享受させることもできます。
家族信託で事業承継対策を行う場合には、株式を信託財産とし、オーナー自らを委託者兼受益者、後継者である子供などを受託者として、信託契約を結ぶことになります。
家族信託(民事信託)で株式を信託する方法は?
株式を信託する場合には、不動産のような登記手続きはありませんが、「当該株式が信託財産に属する旨を株主名簿に記載」する必要があります(会社法154条の2)。
株式の信託手続きは、信託契約書を公正証書にし、株主名簿の書き換えをすれば完了します。ただし、定款に株式の譲渡制限に関する規定がある場合には、承認決議が必要になります。
家族信託(民事信託)では指図権を設定することも可能
家族信託では、指図権を設定することができます。指図権とは、信託財産の管理や処分、運用の方法などについて、受託者に指図できる権限です。
株式を信託したら、委託者ではなく、受託者が株主総会で議決権を行使することになります。しかし、委託者に指図権を残せば、委託者が各議案の賛否について受託者に指示することが可能になります。
家族信託(民事信託)で事業承継対策をするメリット
生前贈与ではないので贈与税がかからない
家族信託による事業承継では、会社オーナーは委託者兼受益者です。株式の形式的な所有者は後継者になりますが、オーナーに信託受益権が残っているため、贈与税は課税されません。
贈与税は名義には関係なく、信託財産から新たに利益を得た人が課税されるしくみになっています。委託者兼受託者の場合には、信託財産から利益を得る人は変わっていないため、贈与税はかからないのです。
なお、家族信託による事業承継の場合、通常はオーナーが亡くなった後に受益権を後継者に移転させます。このときに、後継者に相続税が課税されることになります。
家族信託(民事信託)による事業承継なら経営権の維持が可能
株式には、経営権と財産権の2つの権利が含まれます。通常の生前贈与により株式を譲渡すれば、経営権と財産権の両方が後継者に移転するため、オーナーの生存中から後継者が会社の実権を握ってしまいます。
一方、家族信託では、指図権をオーナーに残すことにより、経営権と財産権を分けることができます。家族信託なら、株式を後継者に形式的に移転させた後も、オーナーが経営権を維持することが可能です。
家族信託では、オーナーが元気な間は会社の実質的な経営者としての立場を維持し続け、万一のことがあったときにはスムーズに後継者に事業承継できます。オーナーが実権を持ったまま後継者を教育し、後継者が一人前になったのを見届けてから実権を渡すといったことも可能です。
後継者を先の世代まで決めることができる
家族信託では、受益者連続型信託という方法により、自分が亡くなった後の受益者や、その受益者が亡くなった後の受益者を指定することができます。家族信託を利用すれば、オーナー自らが先々までの会社の後継者を決めることも可能になります。
また、家族信託では、受益者を指定又は変更する権利を有する人を定めることも可能です。受益者指定権者を定めることで、信頼できる人に後継者にふさわしい人を見定めてもらうこともできます。
後継者が不適格な場合は信託解除もできる
後継者との間で信託契約を結んで家族信託を設定した場合、いつでも信託契約を解除できます。最初後継者に選んだ人が経営者としてふさわしくない場合には、信託契約を解除して、他の人を後継者に選ぶことも可能です。
まとめ
家族信託(民事信託)を活用すれば、スムーズな事業承継が可能になります。家族信託では、生前贈与や遺言と異なり、オーナーの希望を細かく反映しながら柔軟な方法をとることができます。
事業承継に悩んでいる場合、家族信託で解決することもありますから、検討してみるのがおすすめです。
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