家族信託(民事信託)の仕組みと手続きについて
監修
司法書士 速水陶冶
/司法書士法人はやみず総合事務所 代表東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
家族信託(民事信託)について、テレビや新聞、雑誌、インターネットなどのメディアでとり上げられる機会も増えてきました。家族信託は、これからの時代の遺産承継や財産管理の手法として大きな注目を浴びています。
ここでは、家族信託の仕組みと手続きについて説明しますので、大まかなところを理解しておきましょう。
目次
家族信託(民事信託)とは
信託のしくみを用いた財産管理の手法
「家族信託」は、個人が財産を管理する場合の手法の1つです。信託とは、財産の管理や処分を他人に委託することで、信託法という法律で詳細が定められています。信託には、非営利目的の「民事信託」と営利目的の「商事信託」があり、家族信託は民事信託の1つです。
民事信託では財産を委託する相手を自分で選ばなければなりませんが、全くの他人に大切な財産を託したくないという人が多いでしょう。こうしたことから、民事信託を利用する場合には、信頼できる家族に財産を委託するケースが多くなっており、家族信託と呼ばれることがあります。
民事信託でも、家族以外に財産を委託するケースもありますから、厳密に言えば民事信託=家族信託ではありません。
なお、商事信託とは、財産を委託する相手が信託銀行や信託会社といった営利企業である場合を言います。信託銀行が扱っている商品は、たとえ「家族」という言葉が付いていても、民事信託ではなく商事信託です。
家族信託というのは法律用語ではないため、世間でも紛らわしい使われ方をしていますが、ここでは民事信託=家族信託として説明します。
信託の当事者は3者
信託で当事者になるのは、委託者、受託者、受益者という3者になります。「委託者」とは財産を委託する人で、財産の実質的な所有者になります。「受託者」とは、委託者から財産の管理や処分について委託を受けた人です。
信託では、財産は受託者名義になるため、受託者は財産の名義上の所有者と言えます。「受益者」というのは、信託により利益を受ける人です。
委託者と受益者が同一というケースが多いですが、委託者とは別の受益者を指定することもできます。つまり、信託というのは、自分の財産を使って第三者に利益を受けさせることもできるしくみと言えます。
信託法改正により家族信託(民事信託)の利用が可能に
家族信託が注目されるきっかけとなったのは、2006年の信託法改正です。改正信託法では、受託者の義務を合理化する規定や受益者の権利行使をしやすくする規定が整備され、個人が信託のしくみを利用して財産管理を行うのに便利になりました。
これにより、高齢者や障害者の財産管理に信託を利用しようという動きが高まり、専門家を中心に家族信託が提案される機会が増えたのです。
家族信託(民事信託)は認知症対策としても活用できる
認知症の高齢者が増加する見込み
人間は、高齢になるほど認知症になるリスクが高まります。我が国においては、65歳以上の高齢者の全人口に占める割合は2016年には27.3%にのぼっており、今後はさらに増える見込みです。
2025年には65歳以上の認知症患者が約700万人になるという試算もあり、認知症患者数の増加が大きな社会問題となっています。
認知症になれば何が困る?
財産を管理するためには、正常な判断能力が必要です。認知症になれば、判断能力が低下するため、自分で財産管理ができなくなってしまうという問題があります。
認知症の人を支援するための制度として、成年後見制度があり、後見人がつけば後見人により財産の管理を行うことはできます。しかし、後見人は基本的に財産を「維持」するための行為しかできません。
認知症になった人が不動産などの財産を所有していた場合、不動産を処分するなどして活用することが不可能になってしまい、実質的に財産が凍結されてしまうという問題があります。
家族信託(民事信託)で認知症対策ができる
家族信託を利用すれば、財産の実質的な所有者の地位は維持しながら、管理や処分だけを家族に任せることが可能になります。こうした家族信託は、後見代用信託と呼ばれることもあります。
判断能力があるうちに家族信託を組んでおけば、たとえ認知症になっても、財産が凍結されることがありません。家族信託の手続きは、成年後見のように裁判所が関与することもなく、当事者間の契約だけになります。
家族信託を利用すれば、認知症のリスクに備えながら、自らの希望に合わせて柔軟な財産管理を実現できることになります。
家族信託(民事信託)の手続きの流れ
家族信託(民事信託)の手続き方法は3種類
家族信託を組む方法としては、次の3つがあります。
①信託契約による方法
委託者と受託者が信託契約を締結する方法です。家族信託を行う場合、一般には、信託契約による方法を利用します。
②遺言による方法
委託者が受託者を定めて遺言を書き、委託者の死亡と同時に信託を開始させる方法です。遺言は遺言者の一方的な意思で書けますから、受託者が承諾しなかったら信託は開始しません。実務では、あらかじめ受託者の承諾を得た上で遺言を作成するのが一般的です。
③自分で信託宣言を行う方法
自らが委託者兼受託者となり信託を設定する旨の「信託宣言」を公正証書で行う方法もあり、「自己信託」と呼ばれます。信託には倒産隔離機能があり、信託財産は個人の財産と分けて管理されることになります。
自己信託を設定することで、信託財産に強制執行されることがなくなり、他人のために財産を管理することが可能になります。
信託契約による家族信託(民事信託)の流れ
信託を開始する場合、通常は信託契約によることになります。信託契約を締結して家族信託を行う手続きの流れは、次のようになります。
1. 信託の内容を決める
信託契約を締結する前に、どのような形の信託を設定するかを決めます。決めなければならないことは、信託の目的、当事者(委託者、受託者、受益者、信託監督人、受益者代理人など)、信託財産、信託期間、残余財産の帰属先などになります。
信託では、当初の受託者や受益者のほかに、第二受託者や第二受益者も定めることができます。将来発生するであろう問題を解決するために、どういった内容で信託契約を締結すべきかは、専門家に相談しながら決めた方がよいでしょう。
2. 信託契約の締結
1で決めた内容をもとに信託契約を締結します。信託契約には法律上決められた方式などはなく、信託契約書も公正証書でなくてもかまいません。ただし、信託契約は財産上の重要な契約ですから、公正証書を作成しておいた方が安心です。
公正証書作成の際には、公証役場に支払う公正証書作成手数料等が必要になります。公正証書作成手数料は、信託契約の内容によって変わってきます。
3. 名義変更
家族信託を設定すると、財産の名義は受託者に変更することになります。信託財産の中に不動産がある場合には、委託者から受託者への所有権移転登記及び信託登記が必要になります。
なお、信託の登記をする場合、所有権移転登記については登録免許税は非課税ですが、信託登記については固定資産評価額の1000分の4(※土地については租税特別措置法により1000分の3に軽減)の登録免許税がかかります。
家族信託(民事信託)を利用すれば、成年後見制度や遺言制度ではカバーしきれないような遺産承継や財産管理も実現します。家族信託の仕組みや手続きはわかりにくいところがあるため、家族信託を利用して問題を解決したい場合には、専門家のアドバイスを受けるのがおすすめです。
当事務所でも家族信託の手続き代行を行っていますので、お気軽にご相談ください。
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