相続にも期限がある!手遅れになるまえに
監修
司法書士 速水陶冶
/司法書士法人はやみず総合事務所 代表東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
家族や親戚が亡くなったときには、相続手続きをする必要があることはご存じのことと思います。
けれど、身内が亡くなるというのはただでさえショックな出来事ですし、忙しければ相続手続きにもなかなか手が付けられないことがあります。
相続手続きの中には期限が定められているものもあり、放っておくと手遅れになることもあります。
相続手続きの期限について、しっかり確認しておきましょう。
相続手続きの期限とは?
相続手続きとは、被相続人(亡くなった人)が持っていた財産を、家族などの相続人に引き継がせる手続きです。実は相続そのものには期限というのはなく、仮に相続手続きをせずに放置していても、被相続人の財産が国に取り上げられたり他人のものになってしまったりするようなことはありません。
しかし、相続発生に伴ってしなければならない手続きの中には、期限が定められているものがあり、期限に遅れると取り返しのつかないことになる可能性もあります。
また、期限が定められていない手続きについても、放置しておくと後々困ったことになることが多いですから、できるだけ早めにすませておいた方が安心です。
相続手続きの期限の一覧
相続手続きについては、全体の流れを把握しておく必要があります。以下に、相続手続きの一般的な流れと、それぞれの手続きの期限について説明します。
1.被相続人の死亡
相続は、被相続人が亡くなったらすぐに開始します。相続手続きの期限は、相続開始時もしくは相続開始を知ったときから起算することになります。
2.遺言書の有無の確認
相続財産を分けるには、法律で定められているとおり分ける方法(法定相続)以外に、遺言によって分け方を指定する方法があります。被相続人が遺言書を残していれば遺言書による指定が優先しますから、相続手続きでは、まず、遺言書の有無を確認します。遺言書は単なる「遺書」とは違い、財産上のことだけを書いたものになります。
遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言といった種類がありますが、自筆証書遺言や秘密証書遺言が残されている場合には、家庭裁判所で検認を受けなければなりません。検認に明確な期限は定められておらず、相続開始を知った後もしくは遺言書を発見した後「遅滞なく」行うべきものとされています。
3.相続人・相続財産の調査及び確定
被相続人の亡くなるまでの戸籍を取り寄せ、法律上、誰が相続人になるのかを確定します。また、被相続人の財産には具体的にどんなものがあるのかを調査し、財産目録を作成します。
戸籍謄本の取り寄せや相続財産の調査には時間がかかることがありますので、なるべく早く取り掛かりましょう。
4.相続放棄又は限定承認の期限(※3ヶ月以内)
相続が起こった際、何もしなければ「単純承認」と言って、被相続人のプラスの財産だけでなくマイナスの財産である借金も受け継ぐことになります。借金を相続したくない場合には、相続開始を知ったときから3ヶ月以内に、家庭裁判所において「相続放棄」又は「限定承認」の手続きをする必要があります。相続放棄と限定承認には、次のような違いがあります。
相続放棄
相続放棄すれば、被相続人の権利や義務を一切受け継がないことになり、相続人ではなくなります。相続放棄は、相続人が複数いる場合にも1人だけで手続きできます。
限定承認
限定承認は、相続によって得た財産の範囲内で借金などの債務を受け継ぐ方法です。相続人が複数いる場合には、限定承認は相続人全員で行わなければなりません。
相続放棄や限定承認をする期間は延長することもできますが、この場合にも必ず本来の期限までに家庭裁判所に申し立てしなければなりません。期限に遅れた場合には、有無を言わさず借金を相続することにもなってしまいますからくれぐれも注意しておきましょう。
5.所得税の準確定申告の期限(※4ヶ月以内)
被相続人が年の途中で亡くなった場合には、1月1日から死亡日までの所得に対して所得税が発生している可能性があります。亡くなった人は自分で確定申告できませんから、相続人被相続人の所得について「準確定申告」を行って所得税を納付します。準確定申告は、相続開始から4ヶ月以内に、被相続人が亡くなった当時の納税地の税務署で手続きしなければなりません。
なお、サラリーマンが在職中に亡くなった場合には、死亡退職時までの給与等について年末調整されるため、通常は準確定申告は不要です。
6.遺産分割協議の期限
相続人全員で、相続財産の分け方について話し合う必要があります。これを「遺産分割協議」と言います。遺産分割協議が成立したら、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議自体に期限はありませんが、相続税の優遇措置(配偶者の税額軽減、小規模宅地等の評価減の特例など)を受けるためには遺産分割協議が成立していることが前提になりますから、できるだけ相続税申告期限までに終わらせておきましょう。
7.相続税の申告及び納付の期限(※10ヶ月以内)
相続財産の額が一定規模を上回ると、各相続人に相続税の申告・納付義務が発生します。また、配偶者の税額軽減等の優遇措置を受ける場合にも、申告が必要です。
相続税の申告・納付は、相続開始を知ったときから10ヶ月以内に、被相続人が亡くなった当時の住所地の税務署で行わなければなりません。もし期限内に申告しなかった場合には、無申告加算税などのペナルティが課せられます。
なお、期限までに相続税を一括納付できないときには、延納(分割納付)や物納(金銭以外での納付)という方法もあります。この場合にも、本来の申告期限までに税務署で手続きして許可を受けなければなりません。
8.相続財産の名義変更の期限
相続財産について、名義変更や解約等の手続きを行います。
相続財産の中に不動産がある場合には、相続登記(名義変更)をする必要があります。相続登記には、特に期限はありません。しかし、相続登記をしないまま長期間放置していると、相続人のうちの誰かが亡くなったり、手続きに必要な書類を揃えるのが難しくなったりするなど、いろいろなデメリットが考えられます。相続登記もできるだけ早めにすませるようにしましょう。
不動産の名義変更
被相続人の所有していた土地や建物を相続した人は、不動産の名義を変更する手続きが必要です。
相続による不動産の名義変更は、相続登記と呼ばれます。
相続登記をするには、登記申請書と添付書類を法務局に提出しなければなりません。添付書類としては、戸籍謄本や遺産分割協議書などが必要になります。
不動産の登記は義務ではないので相続登記に期限はありません。しかし、放置しておくと次の相続が発生するなどして手続きが複雑化します。名義を変えないと自分が不動産の所有者であることも主張できないので、早めに手続きしましょう。
預貯金の名義変更
預貯金を相続する人が決まったら、預貯金口座の名義変更が必要です。
被相続人名義の銀行口座や郵便貯金口座は凍結されているので、そのままでは払い戻しができません。金融機関の窓口に遺産分割協議書などの必要書類を提出して手続きすれば、口座の凍結が解除され、預貯金の払い戻しが可能になります。払い戻した預貯金は、相続人名義の口座に預け替えることもできますが、現金で受け取ってもかまいません。
預貯金の名義変更に期限はありませんが、現金が必要になったときに手続きが済んでいないと払い戻しができず困ることがあります。
株式の名義変更
被相続人名義の株式は、相続人名義に変更する必要があります。上場株式については、証券会社の窓口で手続きします。上場株式は電子化されており、株式を保有するには証券口座が必要です。株式を相続する人が証券口座を持っていない場合には、証券口座の開設も行わなければなりません。非上場株式については、発行会社に株主名簿記載変更申請書を提出して名義変更します。 株式の名義変更にも期限はありませんが、名義変更しておかないと配当金を受け取れません。名義変更が済んでいなければ、株式の売却もすぐにはできないことになります。
車の名義変更
車の名義変更は、相続した人の住所地を管轄する陸運局(運輸支局または自動車検査登録事務所)に移転登録申請書を提出して行います。申請書には遺産分割協議書、戸籍謄本、手数料納付書、自動車税申告書、自動車検査証、自動車保管場所証明書(車庫証明書)などを添付します。100万円以下の車を相続人の1人が取得する場合、遺産分割協議成立申立書を提出すれば遺産分割協議書は不要です。 車を売却する場合や廃車にする場合でも、一旦相続人名義に変更しなければなりません。名義変更の期限はありませんが、速やかに手続きしましょう。
相続期限が過ぎたらどうなるの?
相続開始を知ったときから3か月以内に相続放棄や限定承認の手続きをしなければ、相続を単純承認したことになってしまいます。被相続人に借金があれば支払義務を引き継いでしまうため注意が必要です。 所得税の準確定申告(相続開始を知ったときから4か月以内)や相続税の申告(相続開始を知ったときから10か月以内)に遅れると、延滞税や無申告加算税が追加され、より多くの税金を払わなければならなくなってしまいます。 その他の期限がない相続手続きも、早めに終わらせないと次の相続が発生して手続きが複雑になることが考えられます。
相続の期限延長が認められるケースとは
相続放棄・限定承認の期限については、当初の3か月の期限までの間(熟慮期間)に、家庭裁判所に期間伸長の申立てをすることにより、延長が可能です。いつまで延長するかは、事情によって家庭裁判所が決めますが、一般には3~6か月程度の延長になります。相続財産の状況がわからず、相続放棄すべきかどうか判断できないなら、期間伸長の申立てをしておくのが安心です。 準確定申告や相続税の申告は、期限の延長ができません。相続税の申告については、遺産分割が終わっていなくても、法定相続分で相続したと仮定して申告が必要です。
まとめ
上記1~10.の手続きは、同時並行して可能なものもあります。また、必ず全てをやらなければならないわけではなく、どの手続きが必要かはケースバイケースになります。
なお、期限の設定されている手続きについては、遅れることで大きな不利益を被ることもありますから、くれぐれも注意しておかなければなりません。
相続手続きについて不安な場合は、専門家にご相談されることをおすすめします。
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