遺言による遺贈寄付の手続きと注意点について司法書士が解説
監修
司法書士 速水陶冶
/司法書士法人はやみず総合事務所 代表東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
生前に遺言書を書いておくことにより、自分が寄付したい団体などに遺贈寄付をすることができる。
遺贈寄付には、社会貢献や節税効果など様々なメリットがある。
遺贈寄付には、『相続人の遺留分に配慮する』ことや『特定遺贈にする』など、いくつかの注意点がある。
遺贈寄付とは
そもそも『遺贈』とは?
『遺贈』とは、遺言書を書くことにより、自らの財産を死後に特定の人に引き継がせることです。遺贈では、遺産を引き継がせる相手は相続人でも相続人以外でもかまいません。
遺贈には、「特定遺贈」と「包括遺贈」の2つがあります。
特定遺贈 | 特定の財産(預金、不動産など)を指定して遺贈する方法 |
---|---|
包括遺贈 | 財産の割合(相続財産の3分の1など)を指定して遺贈する方法 |
『遺贈寄付』は遺贈を利用した寄付
『遺贈寄付』とは、相続人以外の特定の法人や団体等に財産を遺贈することにより、遺産の寄付を実現する方法です。遺贈寄付をすれば、自分が生きている間に築いた財産を社会のために役立ててもらえます。遺贈寄付は人生最後の社会貢献と言えるでしょう。
遺贈寄付のメリット
- 社会貢献ができる
- おひとりさまの財産の承継先を決められる
- 相続税の節税効果がある
- 所得税の寄付金控除が受けられる
1,社会貢献ができる
人間は、誰かの役に立ちたいと思うものです。寄付をすれば、自分のお金を社会のために役立ててもらえるので、気持ちの上で満足感が得られます。生きている間には寄付をするのが難しくても、遺産として残るものの中から寄付ができる場合もあるでしょう。遺贈寄付は個人が社会貢献しやすい方法の1つです。
2,おひとりさまの財産の承継先を決められる
相続人のいない「おひとりさま」の財産は、本人が亡くなったら原則として『国庫』に帰属します。遺贈寄付をすれば、自分で財産の行き先を具体的に決めることができます。自分にゆかりのある団体、関心のある分野や応援したい分野に財産を使ってもらえると、満足感が大きくなるでしょう。
3,相続税の節税効果がある
相続財産が基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超えると相続税がかかります。ただし、遺贈寄付した財産は課税対象に含まれないので、相続税を抑える効果があります。
なお、相続人が行う「相続財産の寄付」では、寄付した財産も原則的に相続税の課税対象に含まれます。例外的に、相続税の申告期限(相続開始から10か月)までに行った寄付のうち要件をみたすものについては、非課税になる特例があります。
4,所得税の寄付金控除が受けられる
遺贈寄付の場合、亡くなった本人の所得税について、寄付金控除の対象となります。寄付先が一定の要件を満たしている場合には、亡くなった人の準確定申告において、寄付金控除を適用できます。
また、相続人が行う「相続財産の寄付」の場合には、相続人が寄付金控除を受けられます。
遺贈寄付の流れ
専門家に相談する
遺贈寄付には注意しておかなければならない点が多々あります。自分だけで進めず、専門家に相談するのがおすすめです。 遺贈寄付の相談ができる専門家は、弁護士、司法書士、行政書士、税理士などです。いずれにしろ、遺贈寄付について対応可能かどうかは、個別に問い合わせる必要があります。
寄付先を決める
遺贈寄付では、主に非営利団体か自治体を選んで寄付します。寄付先が決まっていない場合には、支援したい分野などから寄付先を選びましょう。
遺言執行者を決める
遺言の内容を実現するために、遺言執行者を指定しておきます。遺言執行者は相続人から選んでもかまいませんが、中立的な立場の専門家に依頼するのが安心です。遺言書作成を専門家に依頼すれば、遺言執行者も引き受けてもらえます。
遺言書を作成する
遺言書は法律で定められた方式どおりに作らなければ無効になってしまうため注意しましょう。主に利用されている方式は、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つです。いずれかの方式を選んで、遺言書を作成します。 【自筆証書遺言】 自分で手書きして作る遺言書です。費用をかけずに簡単に作れますが、方式面で無効になることがあり、紛失や改ざん、発見されないリスクもあります。自筆証書遺言は、相続開始後、家庭裁判所で検認を受ける手間も発生します。ただし、2020年7月にスタートした自筆証書遺言書保管制度を利用して法務局で遺言書を保管してもらえば、こうしたデメリットを軽減できます。 【公正証書遺言】 公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。費用はかかりますが、方式面で無効になる心配がなく、検認も不要です。遺言書として最も信頼性が高いため、遺贈寄付を行うなら公正証書遺言がおすすめです。
相続開始・寄付の実行
遺言者が亡くなったら、遺言執行者は遺言書に従って手続きを開始します。遺言書の開示を行い、受遺団体の受け取り意思を確認した上で、財産を引き継ぎます。
遺贈寄付の注意点
- 相続人の遺留分に配慮する
- 包括遺贈ではなく特定遺贈をする
- 寄付が非課税になる団体を選ぶ
- 不動産は現金化して遺贈する
- 寄付先に受け取りの可否を確認してから手続きする
相続人の遺留分に配慮する
相続人のうち配偶者、子供、父母には、相続財産に対する最低限の取り分(遺留分)が保証されています。遺贈寄付を行うときには、相続人の遺留分まで寄付してしまわないよう注意しましょう。
遺留分まで寄付してしまった場合、相続人は遺留分を取り戻すために、寄付先に『遺留分侵害額請求』を行う可能性があります。そうなると、寄付先に迷惑をかけてしまうでしょう。
包括遺贈ではなく特定遺贈をする
遺贈寄付をする場合には、『包括遺贈』は避け、『特定遺贈』にしましょう。包括遺贈にした場合、借金などマイナスの相続財産があれば、寄付先は負債も引き継ぐことになってしまいます。また、包括受遺者(包括遺贈を受けた者)は相続人と同一の権利義務を負うため、寄付先が相続人と遺産分割協議をしなければならなくなることもあります。
寄付が非課税になる団体を選ぶ
相続税の節税メリットを受けたい場合には、国、地方公共団体、特定の公益法人(独立行政法人、社会福祉法人など)、認定NPO法人に寄付する必要があります。それ以外の法人や個人に寄付した場合には、相続税が課税されてしまいます。
不動産は現金化して遺贈する
不動産を寄付したい場合、相続発生後に遺言執行者が不動産を現金化した上で遺贈する『清算型遺贈』にしましょう。不動産の現物を遺贈した場合、時価で譲渡したものとみなされ、含み益(値上がり益)に譲渡所得税が課税されます。
譲渡所得税が課税されるケースでは、相続人が相続開始後4か月以内に準確定申告を行って、納税しなければなりません。
寄付先に受け取りの可否を確認してから手続きする
遺贈は本来、遺言者の意思だけでできます。しかし、遺贈寄付の場合には、事前に寄付先に受け取ってもらえるか確認しておくべきでしょう。寄付先は、どんな財産でも受け取れるわけではありません。不動産などは受け取ってもらえない可能性もあるため、事前に確認が必要です。
遺産を寄付する方法は他にもある
死因贈与とは
「私が死んだら〇〇をあげます」というように、贈与者が死亡したときに効力が生じる贈与を「死因贈与」と言います。遺贈は遺言者の意思だけでできますが、死因贈与は受け取る側との合意(契約)が必要です。
受け取る側が『放棄できる』遺贈とは違い、あらかじめ合意している死因贈与には、確実に財産の引き渡しができるというメリットがあります。
相続人に「相続財産の寄付」をしてもらうには
受け取った相続財産をどうするかは、基本的に相続人が決めることです。しかし、手紙やエンディングノートで相続財産の一部または全部を「寄付してほしい」意向を相続人に伝えれば、自分の希望どおりの『相続財産の寄付』が実現する可能性があります。
まとめ
遺贈寄付をするには、寄付先を決定し、遺言書を作成する必要があります。遺言書作成の際には、相続人の遺留分にも配慮しなければなりません。遺贈寄付には税金の問題もあるため、専門家と相談しながら進めましょう。
当事務所でも、遺贈寄付や遺言書に関するご相談を受け付けていますので、お気軽にお問い合わせください。
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