売れない「負動産」を相続した際の対処方法を司法書士が解説
監修
司法書士 速水陶冶
/司法書士法人はやみず総合事務所 代表東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
「負動産」とは、資産価値が低く、持っているだけで管理コストや手間がかかる不動産のこと。
負動産は、「固定資産税の負担がある」「手放すのが難しい」など、デメリットが多い。
負動産を売却するのが難しければ、お金を払って国や不動産業者に引き取ってもらう方法もある。
目次
相続しても嬉しくない「負動産」とは?
不動産を所有していると、管理する手間がかかるだけでなく、コストも発生します。資産価値がない不動産なら、負担にしか感じないでしょう。そのような不動産は、負の財産という意味で、「負動産」と呼ばれます。
具体的には、田舎の家や山林、田畑がこれに該当します。また、道路に面しておらず、建物が立たない土地もあります。
亡くなった人が「負動産」を所有している場合、相続人に引き継がれます。もし親が「負動産」を持っていれば、それがやがて自分のものになってしまいます。
相続に備え、「負動産」は何が問題なのか、どのように対策すればよいのかを知っておきましょう。
「負動産」を相続するデメリット
- 「負動産」でも相続登記しなければならない
- 相続争いの原因になる
- 売却が難しい
- 管理の手間や費用が発生する
- 固定資産税の負担がある
- 不動産は簡単に手放せない
- 負の連鎖が続く
「負動産」でも相続登記しなければならない
不動産を相続したときには、相続登記をして名義を変更しなければなりません。相続登記は法務局に申請しなければならず、手間がかかる上に、登録免許税も払う必要があります。さらに相続登記を司法書士に依頼する場合には、報酬も払わなければなりません。
これまで相続登記をしていなくても、特に罰則はありませんでした。しかし、令和6年4月からは、相続登記が義務化されています。相続してから3年以内に相続登記をしなかったら、10万円以下の過料を払わされる可能性があります。
相続した不動産をすぐに売却する場合でも、相続登記は必要です。たとえ資産価値がない不動産でも、相続登記の負担は発生してしまいます。
相続争いの原因になる
相続が発生したときには、相続人全員で遺産分割協議を行って、誰がどの財産を相続するかを決めなければなりません。もし相続財産の中に「負動産」があれば、誰も相続したがらないでしょう。「負動産」を押し付け合うようなことにもなり、争いのもとになってしまいます。
売却が難しい
相続した不動産を利用しない場合、通常は売却してお金に換える選択肢があります。しかし、「負動産」は、そもそも資産価値のない不動産です。そのため、それを欲しがる人も少ない(買い手が見つからない)というのが一般的です。
このように、「負動産」を利用しない場合でも、売却してお金に換えるのが難しいという問題があります。
管理の手間や費用が発生する
不動産の所有者には、不動産を管理する義務があります。定期的に状況を見に行って、問題があれば対処しなければなりません。もし不動産の管理が不十分だったことにより、何らかの被害が出てしまったら、損害賠償を請求されてしまいます。
土地は、雑草が生い茂ってしまうため、草刈りが必要になるでしょう。建物が老朽化すれば、修繕もしなければなりません。管理されていない空き地や空き家は、ゴミの不法投棄や不法侵入のターゲットにもなりがちです。近隣に迷惑をかけないよう、きちんと管理しておく必要があります。
相続した不動産が遠方にある場合には、見に行くだけでも時間や交通費がかかります。専門の業者に管理を依頼すれば、手数料が発生します。価値のある不動産なら、手間や費用がかかってもやむを得ないと思えます。しかし、「負動産」なら負担しか感じないでしょう。
固定資産税の負担がある
不動産の所有者には、固定資産税が課税されます。利用価値のない「負動産」であっても、相続したら、毎年固定資産税を納めなければなりません。空き家となっている不動産の場合には、固定資産税額が通常よりも高くなることもあります。
住宅が建っている土地は、通常、特例により評価額を減額して固定資産税を計算します。具体的には、200平方メートル以下の部分については6分の1、200平方メートルを超える部分については3分の1の評価額となります。しかし、「特定空き家」が建っている土地は、評価額の減額が受けられません。
特定空き家とは、「管理不十分で危険な建物」と市町村から認定された空き家です。相続した空き家を放置していると、特定空き家に認定され、通常よりも高額の固定資産税を課されるかもしれません。都市計画税が課税されている地域では、都市計画税も同様に高くなってしまいます。
不動産は簡単に手放せない
売却できない不動産をタダで引き取ってもらえないかと考える人もいるでしょう。しかし、不動産を手放すのは簡単ではありません。不動産の所有権を放棄することも不可能です。役所に相談しても、通常は引き取ってもらえません。
ところで、令和5年に「相続土地国庫帰属制度」がスタートし、相続した土地を国に引き取ってもらう選択肢ができました。しかし、要件が厳しく、利用できないケースも多くなっています(詳しくは後述します。)。
負の連鎖が続く
親から相続した「負動産」を手放せずにいると、やがて子の代に引き継がれます。「負動産」は遺産分割協議でも相続する人が決まらず、相続人全員の共有にせざるを得ないことも多いでしょう。相続を重ねるにつれ権利を持つ人が増え、ますます処分が難しくなってしまうのです。
「負動産」の相続を放棄できる?
不動産の所有者が、所有権を放棄することは基本的にできません。ただし、相続のタイミングでは、相続人は「相続放棄」をして、負動産の所有権を引き継ぐことを拒否できます。相続放棄とは、相続人としての地位をすべて放棄することで、家庭裁判所での手続きが必要です。
相続放棄では、一部の財産だけを放棄することはできません。相続放棄をすれば、「負動産」以外の財産もすべて相続できなくなってしまいます。また、ひとたび相続放棄をすると、撤回はできません。そのため、故人の財産状況を十分に調査したうえで手続きする必要があります。
なお、相続放棄の手続きは、相続開始を知った後3ヶ月以内に行わなければなりません。期限が過ぎると手続きができなくなってしまいます。調査に時間がかかるようなら、相続開始後3ヶ月以内に、手続き期間の延長申請をしておきましょう。
「負動産」を相続したときの対処法は?
「負動産」を相続してしまったら、デメリットを解消するための対策をとるのがおすすめです。 ここからは、「負動産」を相続した際の対処方法について説明します。 [/word_balloon]- まずは売却できないか検討する
- 不動産会社に買い取りしてもらう
- 隣人に声をかけてみる
- 空き家バンクに登録する
- 寄付をする
- 土地活用を考える
- 「相続土地国庫帰属制度」を利用する
まずは売却できないか検討する
価値がないと思われる不動産でも、絶対に売れないわけではありません。複数の不動産会社に依頼して広い範囲で売却活動を行えば、買い手が付くことがあります。建物が建っている場合には、売れやすくするために、解体して更地にすることも考えましょう。
不動産会社に買い取りしてもらう
売却困難な「負動産」でも、不動産会社に買い取ってもらえる可能性はあります。買い取りの場合、一般に価格は相場より低くなります。しかし、「負動産」なら利益は出なくても買い取ってもらうメリットはあるでしょう。
価格が付かないような物件については、逆に不動産会社にお金を払って負動産を引き取ってもらえるケースもあります。
隣人に声をかけてみる
土地がなかなか売れそうにないなら、隣接する土地の所有者に声をかけてみましょう。不動産の世界では、「隣地は高くても買え」と昔から言われています。隣地を手に入れれば立地条件が良くなり、土地の価値が上昇することも多いからです。
空き家バンクに登録する
空き家バンクとは、自治体などが空き家所有者から情報を募り、空き家の利用を希望する人に向けてホームページなどで物件情報を提供する仕組みです。空き家バンクには無料で登録でき、うまくいけば空き家を探している人とマッチングが成立します。
寄付をする
不動産をどこかに寄付する方法もあります。ただし、寄付する場合、受け入れる側の承諾が必要です。市町村では通常「負動産」の寄付は受け入れてもらえません。公益法人などの寄付先を考えてみましょう。
土地活用を考える
一見価値がないと思われる不動産でも、活用できる可能性はあります。建物が建っている場合、更地にすれば駐車場や資材置き場として賃貸できるかもしれません。最近は、古民家に住みたい、古民家をイベントに使いたいという人も増えています。不動産コンサルタントなどに相談し、土地活用のアイデアがないか考えてもらいましょう。
「相続土地国庫帰属制度」を利用する
相続土地国庫帰属制度とは、国が相続した土地を引き取ってくれる制度です。相続した土地が不要な場合には、相続土地国庫帰属制度を利用できないか考えてみましょう。なお、相続土地国庫帰属制度では、すべての土地が対象となるわけではなく、かなり厳しい要件があります。
たとえば、以下のような土地は、そもそも引き取ってもらえません。
- 建物が建っている土地
- 担保権などが設定されている土地
- 他人の利用が予定されている土地
- 土壌汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地
また、以下のような土地は、申請しても不承認となります。
- 崖があって管理に費用や労力がかかる土地
- 管理・処分を阻害する有体物がある土地
- 管理・処分のために除去が必要な有体物が地下にある土地
- 管理・処分のために隣地の所有者と争いが生じる土地
- 管理・処分に過分の費用・労力を要する土地
なお、相続土地国庫帰属制度を利用する場合でも、無償で土地を引き取ってもらえるわけではありません。審査手数料(1筆につき1万4,000円)がかかるほか、負担金として10年分の土地管理費相当額(原則として1筆につき20万円)を納めなければならないというデメリットもあります。
土地を引き取ってもらうことにより管理の手間がなくなるのは大きなメリットです。メリット、デメリットを理解したうえで検討しましょう。
まとめ
「負動産」を相続すると、管理の手間が発生するだけでなく、費用もかかってしまいます。資産価値のない不動産を相続しそうな場合や、既に相続してしまった場合には、早めに対策を考えましょう。
相続した土地を国に引き取ってもらえる制度もスタートしました。条件によっては制度を利用して不動産を手放すことも可能です。「負動産」の相続でお困りの場合には、ぜひ当事務所にご相談ください。
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