独身者(おひとりさま)の遺産相続|遺言や死後事務委任契約が必要な理由
監修
司法書士 速水陶冶
/司法書士法人はやみず総合事務所 代表東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
生前に遺言書を書いておけば、自分に相続人がいない(いても親しくない)場合でも、自分が指定した人(団体)に財産を引き継ぐことができる。
遺言書とセットで、自分の葬儀や家財の処分などの死後の事務を委任する契約や、認知症になった場合に備える任意後見契約をしておくと安心
目次
独身者(おひとりさま)の法定相続人は?
相続の優先順位
亡くなった人の財産を相続する権利がある人を、『法定相続人』と言います。法定相続人は、配偶者と血のつながった親族(血族)の一部です。
配偶者がいなければ、血族のみが法定相続人となりますが、血族については次のように1~3の優先順位があります。
- 【第1順位】子供
- 【第2順位】親や祖父母
- 【第3順位】兄弟姉妹
【第1順位】子供
子供は第1順位なので、亡くなった人に子供がいれば必ず相続人になります。もし子供が先に亡くなっている場合には、亡くなった子供の子供(被相続人の孫)が代襲相続します。
【第2順位】親や祖父母
第2順位は親や祖父母など、亡くなった人の上の世代の人です(『直系尊属』と言います。)。
子供がいない場合、父母や祖父母などの直系尊属の誰かが生きていれば、そのうち最も世代が近い人が相続人になります。たとえば、父母とも生きていれば、父母の両方が相続人となります。
【第3順位】兄弟姉妹
第3順位は兄弟姉妹です。子供が無く、親や祖父母も亡くなっている場合、兄弟姉妹がいれば兄弟姉妹が相続人となります。
兄弟姉妹がすでに亡くなっていても、その子供(亡くなった人の甥・姪)がいれば、その子供が相続人となります。
独身者は兄弟姉妹や甥・姪が相続人になることも多い
子供のいない独身者の場合、父母のどちらか一方でも生きていれば相続人になります。しかし、高齢で亡くなった場合、両親もすでに亡くなっていて、兄弟姉妹や甥・姪が相続人になるケースが多いでしょう。
しかし、兄弟姉妹や甥・姪とは、あまり付き合いがないという人も多いです。父母に離婚歴や再婚歴がある場合には、異母(異父)兄弟など、一度も会ったことがない兄弟姉妹がいるかもしれません。
独身者は、たとえ法定相続人がいても、疎遠な間柄であることも珍しくないのです。
相続人がいない場合に財産はどうなる?
『相続財産管理人』が遺産の清算手続きを行う
相続人が誰もいない場合、残された財産の管理や整理のために、『相続財産管理人』が必要になります。相続財産管理人は、遺産に利害関係がある人の申し立てにより、家庭裁判所が選任します。
相続財産管理人の仕事は、残された財産を整理することです。具体的には、亡くなった人に借金などの負債がある場合には、相続財産管理人が相続財産の中から債権者へ返済します。逆に、亡くなった人が誰かにお金を貸していた等の場合には、相続財産管理人がこれを回収します。
『特別縁故者』が財産をもらえることもある
相続財産管理人が整理した後に相続財産が残った場合、『特別縁故者』がいれば相続財産の分与を受けることができます。
特別縁故者とは、被相続人と特別な関係と言えるくらい親しい間柄だった人です。具体的には、療養看護に努めた人や、同一生計だった人(一緒に暮らしていた人や別居していたが養っていた人)が該当します。
独身者でも、内縁の妻、内縁の夫がいるケースはあるでしょう。事実上の夫婦と言えるような間柄なら特別縁故者となり得ます。ただし、特別縁故者として財産をもらうためには、家庭裁判所に申立てをし、認めてもらう手続きが必要となります。
最終的に残った財産は国庫に帰属
財産の整理を行い特別縁故者への分与をしても、最終的に残った財産がある場合には、その財産は国のものになります。
相続財産管理人は、残った財産を国庫に帰属させる手続きをし、家庭裁判所に報告をして任務を終了します。
相続人の全員が相続放棄をした場合にも同様の手続きが必要
法定相続人は、『相続放棄』することもできます。全く付き合いのなかった甥や姪が相続人になるようなケースでは、相続にかかわりたくないという理由で相続放棄する人も多いです。
相続人となる人が全員相続放棄した場合にも、相続人不存在ということになります。この場合にも、上記のように相続財産管理人を選任してもらい、相続財産を整理する手続が必要です。
独身者(おひとりさま)の相続でよくあるトラブル
- 財産状況がわからない
- 相続手続きをする人がいない
- 相続人同士が疎遠なことも多い
財産状況がわからない
相続の手続きを進める前提として、相続財産を把握しなければなりません。独身者の場合、一緒に暮らしていた家族がおらず、どんな財産を持っているのかがわからないことがあります。
最近は預貯金や株式もペーパーレス化しています。自宅を探しても通帳や株券は見つからないことがあります。パソコンやスマホにはアクセスできないことも多いでしょう。
財産状況が把握できなければ、手続きが難航してしまいます。
相続の手続きをする人がいない
家族がいない独身者は、通常、相続手続きやその他の事務手続きをやってもらえる人もいません。たとえ法定相続人に該当する人がいても、その人に連絡する人がいなければ、亡くなったこともわからないでしょう。
誰かがとりかからなければ相続手続きは始まらず、遺産が宙に浮いたような状態になります。空き家になった自宅が放置されるようなことになれば、周りに迷惑をかけてしまうことも多いでしょう。
相続人同士が疎遠なことも多い
高齢のおひとりさまの場合、兄弟姉妹の誰かが亡くなっていて、甥や姪が相続人になることも多いはずです。複数の兄弟姉妹や甥・姪が相続人になる場合、相続人同士連絡がとりづらく、手続きが進まないことがあります。
相続人が複数いる場合には、相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。相続人同士連絡先も知らなければ、手続きが放置されてしまうこともあるでしょう。
独身者(おひとりさま)は遺言書を作成しておくのがおすすめ
遺言書を作成するメリット
おひとりさまが遺言書を作成しておくメリットは主に以下のとおりです。
- 友人・知人にも財産を譲れる
- 特別縁故者への遺産承継もスムーズに行える
- 遺産を寄付することも可能
友人・知人にも財産を譲れる
独身者の場合、相続人がいても遠い関係であることや、相続人が一人もいないことも珍しくありません。遺言書を作成すれば、遺産を親族以外の友人や知人に譲ることもできます。自分が本当にお世話になった人に財産を残すことも可能になります。
なお、遺言書を書くときには、遺留分に注意しておかなければなりません。遺留分とは相続人に最低限保障されている遺産の取り分です。兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があります。独身者の場合、相続人がいても兄弟姉妹(または甥・姪)であることが多いので、遺言書どおりの相続が実現しやすくなっています。
特別縁故者への遺産承継もスムーズ
相続人のいない独身者に『特別縁故者』がいる場合、遺言書がなくても財産を承継できる制度があります。特別縁故者とは、法定相続ではないものの、亡くなった人と特別の縁故があった人のことを言います。例えば、内縁の妻や夫、もしくは熱心に看護や介護にあたった人がこれに該当します。
しかし、特別縁故者が財産をもらうには、家庭裁判所の手続きを経なければなりません。そのため、特別縁故者への財産分与の手続きには時間や手間がかかるうえに、資料が不十分なら特別縁故者と認めてもらえない可能性もあります。
遺言書を書いておけば、こういった親しい間柄の人にも財産をスムーズに引き継がせることが可能です。たとえ特別縁故者に該当するような間柄であっても、遺言書を書いておくにこしたことはないのです。
遺産を寄付することも可能
遺言書を書けば、個人に限らず、法人にも遺産を譲れます。遺産を特定の団体に寄付する『遺贈寄付』も可能です。遺産を譲りたい人がいない場合には、自分にゆかりのある団体や応援したい団体に遺贈寄付することも考えてみましょう。
遺言書の作成方法
自筆証書遺言
自分で手書きをして作る遺言書です。ただし、財産目録(財産の一覧表)についてはパソコンで作成してもかまいません。
自筆証書遺言は、民法に定められたルールに従って作成する必要があります。具体的には、全文・日付・氏名を自書し、押印する方法で作成します。
なお、相続開始後には、家庭裁判所での検認手続きを受けなければなりません。
2020年7月には、自筆証書遺言を法務局に預けられる制度(自筆証書遺言書保管制度)ができました。遺言書を書いても発見されない可能性がある独身者も、法務局に預けておけば安心です。自筆証書遺言書保管制度を利用した場合には、家庭裁判所の検認も不要になります。
公正証書遺言
公証役場の公証人に依頼して、公正証書の形式で作成してもらう遺言書です。内容についてもチェックしてもらえるほか、証人2人の立ち会いも必要になるため、信頼性の高い遺言書を作成できます。家庭裁判所の検認も不要です。
独身者(おひとりさま)は『死後事務委任契約』も締結しておくと安心
死後事務委任契約とは
亡くなった後には、通夜や葬儀の手配、医療費や公共料金の支払い、役所への届出などさまざまな事務手続きが発生します。このような死後事務について、代理人としてやってもらう契約を死後事務委任契約といいます。
死後事務は、通常は親族が行うものです。親族がいない人は、死後事務をやってくれる人はいません。親族でない人が手続きしようとしても、故人との関係がよくわからなければ、受け付けてもらえない可能性もあります。
死後事務委任契約を締結しておけば、故人が自らの意思で代理権を与えたことが明確になります。家族のいないおひとりさまは、死後事務委任契約の必要性が高いといえるでしょう。
死後事務は誰に委任する?
死後事務を誰に頼むかは、自分で自由に決められます。信頼できる友人や知人に頼んでもかまいませんが、あくまで契約なので本人の承諾が必要です。
頼める人がいない場合には、行政書士、司法書士、弁護士等の専門家に依頼できます。
死後事務委任契約は公正証書で
死後事務委任契約に方式面のルールはありませんが、公正証書にしておくのが安心です。専門家に死後事務を委任する場合には、公正証書作成の手続きにも対応してもらえます。
独身者(おひとりさま)は認知症になった場合の財産管理にも備えておく
『任意後見契約』とは
任意後見契約とは、将来、認知症などで判断能力が低下した場合に、財産管理や身の回りの事務を任せる「後見人」になってもらう契約です。
判断能力が低下してからでは契約の締結自体ができないので、将来に備えてあらかじめ契約しておく必要があります。
任意後見契約は公正証書で結ぶ必要があります。実際に判断能力が低下したときに、関係者が家庭裁判所に申し立てることで、任意後見契約がスタートします。
任意後見契約と死後事務委任契約の両方を結べばより安心
任意後見契約では生前のことしか頼めませんし、死後事務委任契約では死後のことしか頼めません。おひとりさまの場合、信頼できる人を見つけて、両方をセットで結んでおくのがおすすめです。
まとめ
独身者(おひとりさま)は、遺言書や死後事務委任契約によって相続対策をしておく必要性が高いといえます。
まずは、自分の相続人になる人が誰かを確認し、遺言書を作成すべきか検討しましょう。認知症になった場合も含めて、信頼できる人に身の回りのことを頼んでおくと安心です。
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