相続人が認知症の場合の相続手続きの進め方
監修
司法書士 速水陶冶
/司法書士法人はやみず総合事務所 代表東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
相続手続きをする際、相続人に認知症の人がいれば、通常の方法では対応できないことがあります。
日本は高齢化社会ですから、相続人も高齢で認知症になっているというケースも多いはずです。たとえば、父親が亡くなったとき、母親や兄弟が認知症になっていることもあるでしょう。
ここでは、認知症の相続人がいる場合の相続手続きについて解説します。スムーズに財産の引き継ぎができるよう、相続手続きの進め方を知っておきましょう。
目次
認知症の相続人がいるときの相続手続きの方法とは
認知症の相続人がいる場合、相続手続きの際に必要になる遺産分割協議ができないという問題があります。
遺産分割協議は相続人全員が参加しなければ無効ですから、認知症の相続人を除外して遺産分割協議をすることはできません。
民法で決まっている法定相続に従う場合には、認知症の相続人がいても、手続きできる場合があります。しかし、遺産分割協議をして財産を分ける場合には、認知症の相続人に後見人を付ける必要があります。
法定相続による相続手続き
法定相続とは、民法に定められている原則的な相続方法で、法定相続人が法定相続分ずつ財産を引き継ぐ方法です。
たとえば、被相続人に妻と子供がいる場合、妻と子供全員が法定相続人となり、妻の法定相続分は2分の1、子供は残り2分の1を均等に分けることになります。
不動産については、法定相続人が法定相続分で共有する形であれば、相続人の1人からでも相続登記の申請ができます。つまり、認知症の相続人を関与させないで手続きが可能です。
一方、預貯金については、原則的に遺産分割協議が必要です。たとえ法定相続分で分ける場合でも、相続人全員の印鑑証明書を提出しなければなりませんから、認知症の人を除外して手続きするのは事実上困難です。
遺産分割協議による相続手続き
遺言書がない場合、相続財産は遺産分割協議によって分ける必要があります。法定相続人には法定相続分の財産を取得する権利がありますが、財産というのは現金のようにきれいに分けられるものばかりではないからです。
実際には、現金や預金も遺産分割の対象と考えられているため、遺言書がない限り、遺産分割協議が必要です。
遺産分割協議は、相続人全員で行います。認知症の相続人がいる場合、その人は適切な判断ができないため、代理人を立てなければなりません。相続人が1人でも欠けていれば、遺産分割協議は法律上無効とされてしまいます。
認知症の相続人がいる場合には、代理人を立てなければ、相続財産を分けることができません。
遺産分割では認知症の相続人の代理人が必要
相続財産は、遺産分割協議を行って分けます。しかし、認知症の相続人は遺産分割協議に参加できません。認知症の相続人が遺産分割協議を行うときには、代理人を立てる必要があります。
認知症の人の代理人は、成年後見人という法定代理人(法律の規定によって定められた代理人)になります。
成年後見人は、認知症などで判断能力が不十分になった人を支援するための成年後見制度により、代理人として選任された人です。
成年後見制度とは
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などで判断能力が不十分になった人に、後見人(または保佐人、補助人)という援助者を付けることにより、財産管理などを支援する制度です。
成年後見制度における支援の種類は、本人の判断能力の程度に応じて、「補助」「保佐」「後見」の種類に分かれますが、後見が最も多くなっています。認知症の場合にも、通常は後見が開始し、後見人が付きます。
後見制度には、法定後見と任意後見の2種類があります。法定後見は、裁判所に後見人を選任してもらう方法です。一方、任意後見は、本人が将来認知症になった場合に備えて、あらかじめ後見人になってもらう人を自分で選んで契約しておく方法です。
成年後見人とは
成年後見人は、認知症などで判断能力がなくなった人の援助者です。
成年後見人は、本人の財産を管理するほか、契約などの法律行為を行う権限があります。相続手続きでは、遺産分割協議や相続放棄について、成年後見人が代理人となることができます。
成年後見人は、本人の財産を適切に維持管理する義務を負うため、財産の投機的な運用はできません。本人の財産を自己のために使用したり、親族へ贈与・貸付したりすることも、原則として禁止されています。
成年後見人には親族などがなることもありますが、弁護士などの専門家が選任されることもあります。専門家に成年後見人になってもらう場合には報酬が発生しますが、報酬を決めるときには裁判所の許可が必要です。
成年後見人の手続き
任意後見を利用する場合、認知症になる前に後見人を選んで任意後見契約を結んでおきます。任意後見契約は公正証書で行わなければならないので、公正証書作成の手数料がかかります。なお、任意後見を開始するには、本人が認知症になった後、家庭裁判所に申し立てて後見監督人を選任してもらわなければなりません。
任意後見契約を結んでいない場合、法定後見を利用することになるため、家庭裁判所に後見開始の申立てをする必要があります。申立ての際には、申立書、診断書、申立手数料(800円)、登記手数料(2600円)、鑑定料(鑑定が必要なケースのみ)、郵便切手、戸籍謄本等が必要です。
申立て後、審問、調査、鑑定等を経て後見開始の審判が出され、後見人が選任されます。
遺産分割協議で成年後見人を立てないとどうなる?
認知症の相続人がいる場合、成年後見人を選任してもらわない限り、遺産分割協議ができません。成年後見人選任手続きは面倒ですから、そのまま放置してしまうこともあるでしょう。
遺産分割協議には期限がないので、放置していても罰則などはありません。
しかし、遺産分割協議をしない間に次の相続が発生すると、遺産に対して権利を持つ人が増えることになります。他にも認知症になる相続人が出てくる可能性もあり、手続きがより複雑化してしまいます。
相続税は法定相続分の申告になる
被相続人が残した財産が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合には、財産を取得した人に相続税がかかります。この場合、相続開始を知ったときから10か月以内に、相続税の申告が必要です。
相続税は、その相続での「相続税の総額」を、各相続人が取得した財産の額に応じて分けます。つまり、遺産分割が終わらないと、各相続人が負担する相続税の額も決まらないということです。
相続税の申告期限までに遺産分割が終わっていない場合には、法定相続で相続したものと仮定して、各相続人が相続税を負担しなければなりません。認知症の相続人に後見人を立てておらず遺産分割協議ができないときには、相続税も法定相続分の申告となってしまいます。
不動産は共有名義のままになる
相続財産の中に不動産がある場合、遺産分割協議を行って、相続人のうちの1人が相続するのが一般的です。この場合には、相続登記を行って、不動産を取得する人に名義変更します。
認知症の相続人に成年後見人がいないせいで遺産分割協議ができない場合には、不動産を相続する人を決めることができません。相続登記をするときにも、法定相続で登記せざるを得ないことになります。
共有不動産を売却等して処分したい場合には、共有者全員が合意する必要があります。相続人の意見が一致しなければ、不動産の売却もできません。不動産の持分のみを売却や賃貸することは事実上困難です。つまり、せっかく不動産という財産を持っていても、活用できないことになります。
相続書類を集めることができない
相続が開始したら、被相続人名義の預貯金は凍結されます。遺言書がない場合、預貯金の相続手続きには原則的に遺産分割協議書が必要です。しかし、遺産分割協議書がなくても、相続人全員が印鑑証明書を用意した上で、相続人全員が金融機関の用意する用紙に記入すれば、預貯金を引き出すことはできます。
相続人の中に認知症の人がいる場合、認知症の人は基本的に印鑑登録ができないため、印鑑証明書を取ることはできません。認知症の人については、印鑑証明が必要な手続きでは、後見人の印鑑証明を取ることになります。
認知症の相続人に後見人が付いていなければ、相続手続きに必要な書類を集めることもできないということです。
被相続人はできるだけ遺言を残す必要がある
認知症の相続人に成年後見人が付いていない場合、そのままでは遺産分割協議ができません。遺産分割協議の前に、家庭裁判所で後見人を選任してもらう手続きが必要になります。後見人選任の手続きには手間もかかる上に、相続手続きにかかる時間を増やすことになってしまいます。 自分が亡くなったときに相続人になる人の中に、既に認知症の人や、今は正常な判断能力を持っていても高齢の人がいる場合には、相続対策として遺言書を残しておくのが有効です。
法的な要件を満たした遺言書が残されていれば、相続手続きの際に遺産分割協議をする必要はありません。スムーズに相続手続きが進みますから、相続人に余計な負担を残すこともなくなります。
まとめ
相続人の中に認知症の人がいる場合には、法定代理人である成年後見人がいなければ、遺産分割協議ができません。たとえ認知症になっていても、相続する権利はありますから、認知症の相続人を除外することはできないことを知っておきましょう。
相続開始後に成年後見人選任の手続きをしていると、手続きに時間がかかってしまいます。将来認知症の人が相続人になる可能性がある場合には、遺言書を書いて相続対策しておくことも検討しましょう。
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