相続人が行方不明で遺産分割できない場合の対応方法とは?
監修
司法書士 速水陶冶
/司法書士法人はやみず総合事務所 代表東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
東京司法書士会所属。1979年東京都生まれ。幼少期に父親が事業に失敗し、貧しい少年時代を過ごす。高校を中退した後、様々な職を転々とするも一念発起して法律家の道へ。2009年司法書士試験合格。
兄が行方不明で連絡が取れません。兄を除いて相続手続きをすすめることはできますか??
兄とは長年、音信不通なのですが、どうやって兄の連絡先を調べればいいのですか?
今回は、行方不明で連絡がとれない相続人がいる場合に、どうやって相続手続きを進めればよいか説明します!
行方不明の人にも相続人としての権利はある。
戸籍の附票を取って住所を調べることができるが、それでも住所が分からない場合は、不在者財産管理人という制度を使って解決できる。
行方不明者の生死が7年以上明らかでない場合には、失踪宣告という制度を使って解決できる。
目次
行方不明者も相続する権利がある!
行方不明者にも相続人としての権利がある
『相続人』とは、亡くなった人(被相続人)の残した財産を受け継ぐ立場の人になります。
相続人の範囲は、民法で決まっており、勝手に変えることはできません。被相続人と長年にわたって付き合いがなかった人でも、相続人としての権利を持っていることになります。
相続人の中には、行方不明で全く連絡がとれない人が含まれていることもあります。そのような場合にも、行方不明者を無視して相続手続きを進めるわけにはいかないことがあります。
行方不明の相続人も遺産分割協議に参加する必要がある
相続手続きでは、相続財産をどのように分けるか相続人で話し合うことになります。この話し合いを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議は、一部の相続人だけですませるというわけにはいかず、相続人全員で行わなければならないことになっています。
もし相続人の中に行方不明者がいれば、そのままでは遺産分割協議ができません。行方不明の相続人にも連絡をとらなければならず、見つからない場合には行方不明者の代理人を立てて遺産分割協議をする必要があります。
「遺言書」があれば遺産分割協議なしで相続手続きができる
被相続人が遺言書を残している場合、民法で定められた法定相続よりも遺言が優先するというルールがあります。
遺言書があれば、相続財産は「遺言で指定された人」が承継することになりますので、相続人全員で遺産分割協議をする必要はありません。
この場合には、相続人の中に行方不明者がいたとしても、その行方不明者を相続手続きに参加させる必要がないので、遺言で指定された人だけで相続手続きを進めることができます。
受遺者が行方不明でも遺言書の効力はなくならない
遺言があるけれど、「遺言で指定された人」が行方不明というケースも考えられます。
この場合でも、遺言の効力はなくなりません。その行方不明者を探して見つからなければ、行方不明者の代理人を立てて遺言執行の手続きをする方法もあります。
相続人の中に行方不明者がいる場合の対応方法
- 連絡先がわからない場合
- 住所を調べたが所在不明である場合
- 生死不明の状態が7年以上続いている場合
1,連絡先がわからない場合
行方不明の人がどこに住んでいるのかがわからず、連絡がとれないという場合には、現在の住所を調べることにより連絡がとれる可能性があります。
まずは役所で被相続人の『戸籍謄本』を取り、相続人の戸籍を追っていきます。行方不明の相続人の『現在の本籍』がわかれば、本籍地の役所で「戸籍の附票」を取ることにより、現住所を知ることができます。
現住所がわかれば、手紙を出したり、直接訪ねたりして連絡をとることを試みます。
2,住所を調べたが所在不明である場合
行方不明者はおそらく生きているだろうけれど、住所を調べてみても、どこにいるのかが全くわからないということもあります。
例えば、1の方法で住民票上の住所を調べ、訪問等をしてみたが、その住所に実際には住んでいないということもあり得ます。また、実際に居住していないなどの理由で住民登録が職権で抹消され、どこにも住民登録がないというケースもあります。
このように、手を尽くして調べたものの、やはり所在不明であるような場合には、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てることができます。
この場合、選任された不在者財産管理人が、行方不明者の代わりに遺産分割協議に参加したり、不動産の遺贈を受ける場合には相続登記の申請をしたりすることになります。
3,生死不明の状態が7年以上続いている場合
行方不明者の生死が7年以上(※震災などが原因の「危難失踪」の場合には1年以上)明らかでない場合には、裁判所に「失踪宣告」を申し立てることができます。
失踪宣告とは、行方不明者を法律上死亡したものとして取り扱う制度になります。
失踪宣告が出されると、行方不明者は、行方不明になったときから7年経過したとき(※危難失踪の場合には危難が去ったとき)に死亡したとみなされることになります。
行方不明の相続人がいる場合の遺産分割協議
- 相続人が行方不明の場合、不在者財産管理人を家庭裁判所に選任してもらうことが多い。
- 不在者財産管理人は、行方不明者の代わりに遺産分割協議を行い、遺産を管理する。
まずは不在者財産管理人を申し立てる
住所を調べても行方が分からない相続人がいて困るのは、遺産分割協議の場面です。
この場合、遺産分割協議をするには、上記のとおり、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てるか、失踪宣告を申し立てるかしなければなりません。
失踪宣告については、行方不明になってから7年経過していなければ申し立てできませんし、申し立てから宣告までに1年から1年半程度時間がかかってしまうという難点もあります。また、失踪宣告後に行方不明者が現れ宣告が取り消された場合には、権利関係が複雑になってしまうおそれもあります。
こうしたことから、相続人の中に行方不明者がいる場合には、不在者財産管理人の選任を申し立てて手続きすることが多くなっています。
不在者財産管理人選任の申立て方法
不在者財産管理人選任の申し立ては、家庭裁判所に対して行います。
申し立て手数料(収入印紙代)は800円で、申し立て時には以下のような書類が必要になります。
- 不在者の戸籍謄本
- 不在者の戸籍の附票
- 財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票
- 不在の事実を証する資料(宛所不明により返送された郵便物の写し等)
- 不在者の財産に関する資料(不動産の登記簿謄本や預金通帳の写し等)
- 利害関係を証する資料(相続関係を証明する戸籍謄本等)
申立書には、不在者財産管理人の候補者を書くことができ、利害関係のない親族等を候補者にすることもできます。候補者がいない場合には、弁護士や司法書士が不在者財産管理人として選任されることになります。
申立後不在者財産管理人が選任されるまでの時間は1~2ヶ月程度になります。また、申し立て時には不在者財産管理人の管理費用の予納が必要になる場合があります。
遺産分割協議に参加するには権限外行為の許可が必要
不在者財産管理人は、民法103条に定められた「保存行為」、「目的の物や権利の性質を超えない範囲における利用や改良行為」のみを行うことができます。
不在者財産管理人が行方不明者に代わって遺産分割協議に参加することは、権限外の行為になりますから、別途家庭裁判所の許可が必要になります。
行方不明者の相続取り分
不在者財産管理人が行方不明者の代理人となって遺産分割協議を行う場合、行方不明者の不利益にならないような配慮が必要です。
行方不明者の取り分が法定相続分を下回る場合には、裁判所に許可してもらえないのが原則的な取り扱いとなっています。
帰来時弁済型の遺産分割が行われることも
遺産分割協議において、行方不明者が財産を取得すると、不在者財産管理人は不在者がいつ戻ってくるのかもわからないのに財産を管理しなければならず、大きな負担になってしまいます。
そのため、このような場合には、実務では帰来時弁済型の遺産分割が行われることが多くなっています。
帰来時弁済型の遺産分割とは、不在者の法定相続分を他の相続人が預かっておき、不在者が戻ってきたときには預かっておいた財産分のお金を支払うという内容の遺産分割になります。
帰来時弁済型遺産分割は必ず認められるわけではありません。少なくとも、財産を預かる相続人に十分な資力があることを証明しなければなりませんから、家庭裁判所が許可するかどうかはケースバイケースになります。
行方不明者の失踪宣告手続き
- 失踪宣告は、家庭裁判所で手続きをする。
- 失踪宣告がされると、行方不明者は死亡したとみなされる。
失踪宣告の具体的手順
失踪宣告を出してもらうまでの流れは、次のようになっています。
行方不明者の住所地を管轄する家庭裁判所に、以下のような書類を揃えて申立てします。
- 申立書
- 行方不明者の戸籍謄本及び戸籍附票
- 失踪したことを証明する資料
- 行方不明者と申立人の関係を示す資料(相続関係を示す戸籍謄本)
家庭裁判所調査官が関係者に事情聴取をするなどして調査します。
行方不明者や行方不明者の生存を知っている人に対し、一定期間内に届け出るよう、裁判所の掲示板で催告します。
3の催告期間が満了し、届出がなければ失踪宣告が出されます。失踪宣告がされると、行方不明者は死亡したとみなされます。
普通失踪と特別失踪
失踪宣告の申立てが可能になるまでの期間は、「普通失踪」と「特別失踪」のどちらに該当するかによって変わります。
普通失踪 | 特別の原因がない通常の失踪のことで、行方不明になってから7年経過で失踪宣告の申立てができます。 |
---|---|
特別失踪 | 戦争、船舶の沈没、震災などの危難に遭遇して行方不明になった場合で、行方不明になってから1年経過で失踪宣告の申立てができます。 |
失踪宣告は時間がかかる
失踪宣告の手続きでは、行方不明者や行方不明者の生存を知っている人に届出を催告するよう、3か月以上(特別失踪の場合には1か月以上)の催告期間が設けられます。そのため、申立てから失踪宣告が出されるまで、通常半年から1年程度はかかります。
相続税がかかるケースでは、相続開始を知ったときから10か月以内に相続税の申告をしなければなりません。失踪宣告の手続きをしていると相続税の申告に間に合わないので、不在者財産管理人選任を申し立てて遺産分割協議を行う方法も検討した方がよいでしよう。
海外で行方不明の相続人の場合
相続人が海外に移住していて、居場所がわからないケースもあると思います。この場合でも、不在者財産管理人や失踪宣告の制度を利用するには、あらゆる方法を用いて探したけれど見つからなかった証明が必要になります。まずは、できる限りの手段を尽くして、相続人を探さなければなりません。
海外に移住した人の情報も、戸籍謄本等を調べればわかることがあります。ただし、自分で調査するのは困難ですから、専門家に依頼するのがおすすめです。
当事務所の解決ストーリー
所在不明の従兄と遺産分割を成立させたケース
- 依頼者:被相続人の甥
- 相続財産
地方の土地
依頼者は、被相続人の甥でした。
被相続人である叔母は、7年ほど前に亡くなっており、その時に遺産分割協議はすでに済んでいました。
共同相続人は、依頼者と依頼者の従兄の二人でしたが、この従兄とは当時ほとんど面識がなく、その時も弁護士に依頼して遺産分割協議を成立させた経緯がありました。
ところで、遺産のなかに地方の土地が含まれており、この土地は依頼者が取得することになっていました。しかし、依頼者はこの土地について名義変更(相続登記)をせず、叔母名義のまま放置していました。
しかし、この度この土地を売却することになり、そのために相続登記をしなければならないということで当事務所に依頼されました。
ところが、対象地を調査すると、この周辺で他にも被相続人が所有する土地が発見されました。こうなると、あらためて遺産分割協議書を作成し直さなければ、すべての土地につき名義変更することができません。
そのためには、共同相続人である従兄とあらためて協議をしなければなりませんが、現在もその所在は分かりません。
そこで、戸籍調査を行い、あらためてこの従兄の所在を特定したうえで連絡を取ったところ、快く遺産分割協議に応じてくれました。結局、周辺の土地も依頼者が取得することで協議がまとまり、無事に相続登記を完了することができました。
不在者財産管理人を選任して遺産分割をしたケース
- 依頼者:被相続人の甥
- 相続財産
現金9000万円
依頼者は、被相続人の甥でした。依頼者の父親である被相続人の弟は、10年ほど前に既に亡くなっていたため、依頼者が代襲相続人となりました。
他の相続人を確認するため、戸籍謄本や住民票を取り寄せ、相続人調査を行ったところ、共同相続人として、依頼者と同様に代襲相続人となった、甥・姪(依頼者のいとこ)が他に7名いることが分かりました。
普段、付き合いのない相続人もいたため、住民票の住所を頼りに何人かにお手紙を出したところ、その中の一人への手紙が、「宛所不明」で戻ってきてしまいました。この行方不明者の親族にも、心当たりがないか尋ねましたが、20年以上も行方知れずとのこと。その後も住所に赴き調査をしましたが、一向に行方がつかめませんでした。
そこで、この所在不明の従兄弟の代理人として、家庭裁判所で「不在者財産管理人」を選任してもらうことにしました。
その後、財産管理人には弁護士が選任されたため、この弁護士を含めた相続人全員で遺産分割協議を行うこととなりました。その結果、遺産となる預貯金は、相続人全員が、法定相続分に応じた割合にて、それぞれ取得することで話がまとまりました。
行方知れずの弟が遺産分割調停で相続分を譲渡した事例
- 依頼者:被相続人の長女
- 相続財産
自宅マンション
依頼者は、亡くなった母親の長女でした。父親は5年ほど前に既に亡くなっており、相続人は、依頼者と依頼者の弟の2人でした。
依頼者は、母親と同居していたマンションが、母親名義になっていたため、これを依頼者の名義に変更(相続登記)したいと考えていました。
しかし、共同相続人である弟とは、過去の金銭トラブルが原因で、10数年も連絡を絶っており、弟が現在何処に住んでいるのか分からず、消息不明の状態でした。
そこで、戸籍を辿って調べたところ、行方知れずの弟は、今は関西地方に住んでいることが判明しました。弟にあて、相続に協力してくれるよう何度かお手紙を出しましたが、返事がくることはありませんでした。
手紙を出してから3ヶ月ほど経過した頃、しびれを切らした依頼者は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることを決心しました。
家庭裁判所に必要書類を提出し、しばらくすると、書記官から依頼者に電話が入りました。なんと、弟が依頼者に相続分を譲渡したいと申し出たというのです。
そのため、マンションは依頼者が単独で相続する旨の審判(判決のようなもの)がなされ調停は終了し、無事にマンションの相続登記を完了することができました。
不在者財産管理人を選任し借地権と建物の売却に成功した事例
- 依頼者:被相続人の長女
- 相続財産
自宅の建物と借地権
依頼者は、亡くなった父親の長女でした。父親には、前妻との間に子供が2人(姉妹)いたため、相続人は、依頼者と前妻の子2名の計3名でした。
前妻の子は、依頼者からすると、「異母姉妹」にあたりますが、過去に数回会ったとことがある程度で、その所在は分かりませんでした。
そこで戸籍を調べたところ、姉の所在はすぐに判明しましたが、妹は住民票の記載が「職権消除」により抹消され、行方不明の扱いとなっていました。連絡が取れた姉にも妹の所在を確認しましたが、姉も何年も連絡が取れておらず、ゆくえ知れずとのこと。
そこで、行方不明の妹のために、家庭裁判所に「不在者財産管理人」を選任してもらうことになりました。申し立ての結果、財産管理人には弁護士が選任されました。
選任された財産管理人を含めた相続人全員で協議した結果、遺産となる建物と借地権は一旦売却し、その売却代金を相続人全員で分ける(換価分割)ことになりました。行方不明の妹が受領すべき金銭は、財産管理人の弁護士が預り、家庭裁判所の監督のもと管理していくことになります。
その後、相続登記(名義変更)や売却手続き、代金の精算はスムーズに完了することができました。
まとめ
相続人の中に行方不明者がいると、相続手続きがスムーズに進まなくなることがあります。
相続発生前であれば、遺言書を書いておくことで、相続時の問題に備えることもできます。当事務所では、遺言、相続の問題についてトータルにサポートいたします。相続対策、相続手続きでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
お探しの記事は見つかりましたか?
関連する記事はこちら
お客様の生の声
コラムカテゴリー
- トップページ
- はやみず総合事務所について
- お客様の生の声
業務内容・サービス紹介
- 法人向けサービス
よくあるご質問
- よくあるご質問
コンテンツ
- プライバシーポリシー
- 求人情報
新着情報
2024/07/24
資格予備校のアガルートアカデミー公式サイトに特別インタビューが掲載されました。2024/03/02
【解決事例】前妻の子が共同相続人になるケース2024/01/24
売れない「負動産」を相続した際の対処方法を司法書士が解説2024/01/24
相続は行政書士?司法書士?どちらに頼むべきか|相続の業務範囲を徹底比較2023/12/29
年末年始の営業のお知らせ